統合失調症の共感仮説(1)

統合失調症という病気があります.

人類とともに歩んできたと言っていいほど歴史のある病気ですので,定義には諸説あるのですが,便宜的に診断基準をDSM5から主な箇所を引用すると,

 

  1. 以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくとも1つは(1)か(2)か(3)である。
    (1)妄想
    (2)幻覚
    (3)まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
    (4)ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
    (5)陰性症状(すなわち感情の平板化、意欲欠如)

 

とあり,他にB-Fまで詳細な基準があります.

なかなか噛み砕いて説明するのが難しいのですが,思春期から青年期に発症し,幻覚とそれによる妄想を典型的症状とする慢性疾患で,「自分の悪口を言っている声が聞こえる」「某国のスパイに狙われている」など幻聴による被害妄想が典型的です.人口の1%弱に発症するありふれた疾患であり,某世界宗教の開祖達や,某北日本の神様の託宣を媒介するとされる人々はこの病気である(あった)と囁かれています.厳密な原因は不明ですが,遺伝的関与が指摘されており,いわゆる「精神病家系」と言った言葉は,(真偽と善悪はさておき)この統合失調症(と双極性障害うつ病)を背景にしていると思われます.

人口の1%というのは大変な数字で,多くの社会生活を送ってきた方ならば周囲にこの病気の方がいらっしゃるはずです.私の友人にもこの病気を患っている人がおり,話を聞く度に大変な病気だと思います.彼または彼女は現在,幸いながら快方に向かっているのですが,ご家族にも同様の病気の方がおり.「もし結婚しても遺伝しないか心配だから子供は作りたくない」と当事者自ら言っています.私は当事者が望んだら子供を作る事にはなんら問題ないと考えておりますが,それこそ当事者の言葉にはそれなりに重みがあり,モヤモヤとしながら考えております.

 

統合失調症の原因に関しては数十年前に脳内物質のドーパミンの関与が提案され,現行の医療では主にそれにドーパミンをブロックする薬物療法が行われております.近年の遺伝子解析の成果により,(以前から予言されていましたが)リスク遺伝子を多数もつ人に,身体的,精神的ストレスが加わって発症することが明らかになってきました.また,ちょうど次世代をもうける時期がこの病気の好発年齢であることなどが理由なのでしょうが,統合失調症の方は統計的にもうける子供を数が少ないことが指摘されております(アダム・ラザフォード ゲノムが語る人類全史など複数にありましたが,さらに出典に当たる必要がありますね).

 

つまり,

 

この病気は遺伝的寄与が大きく,この病気を発症してしまったら,平均としては次世代に遺伝子を受け継ぐ確率が小さくなる.

 

ということです.これをDarwinismに照らし合わせて考えると,次の疑問が浮かびます.

 

統合失調症に関連するリスク遺伝子がHomo sapiensの長い歴史の中で淘汰されなかったのはなぜか.